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第264回 昔の栄養学、今の栄養学 2007年9月19日











文祥堂フォーラム 第263回講演


 栄養学、つまりはどんな食品をどれ位食べたらよいかということは時代と共に大きく変わってきました。
 終戦直後の食糧が不足していた時代を別にしても明治時代の「脚気」の原因を巡る森林太郎と高木兼寛の論争以来、色々な問題について様々な意見が出され、その中身も時代と共に変わってきたのが実情でしょう。
 最近でもテレビで問題になるようなことがおきています。栄養は直接健康に関わるので、栄養に関わる問題を色々な視点から解説したいと思います。
(五十嵐 脩)


五十嵐 脩 氏
PROFILE ・・・・・・・・・・・・・・・・

五十嵐 脩 氏 (いがらし おさむ)
(社)栄養改善普及会会長
お茶の水女子大学名誉教授・農学博士
昭和9年10月20日東京生れ
<略 歴>
昭和32年3月 東京大学農学部農芸化学科卒業
昭和34年3月 同大学大学院化学系研究科修士課程(農芸化学専攻)修了
昭和35年3月 同上大学院博士課程中途退学
昭和35年4月 東京大学農学部助手に採用
昭和42年3月 東京大学より農学博士号授与
昭和42年11月 お茶の水女子大学助教授に昇任(家政学部食物化学研究施設)
昭和57年1月 同大学教授に昇任(生活環境研究センター)
昭和61年4月 同大学生活環境研究センター長併任(平成9年3月まで)
平成9年4月〜11年3月  同大学学生部長併任
平成12年3月 同大学定年退官
平成12年4月 茨城キリスト教大学生活科学部教授
平成12年5月 お茶の水女子大学名誉教授
平成19年3月 茨城キリスト教大学退職
平成19年5月 (社)栄養改善普及会会長に就任 現在に至る
<学会関係>
日本栄養・食糧学会名誉会員(理事、会長、顧問を歴任
日本ビタミン学会評議員(理事歴任)
日本農芸化学会評議員、終身会員(理事歴任) ほか
<官庁関係>
厚生省食品衛生調査会委員歴任(平成17年3月まで)
厚生労働省独立行政法人評価委員会委員(平成17年6月まで)
現在 独立行政法人国立健康・栄養研究所外部評価委員会委員長
(平成18年4月より)
現在 独立行政法人国立健康・栄養研究所NR指定委員会委員長
<研究関係>
1990年  日本栄養・食糧より学会賞受賞
1995年  日本栄養・食糧学界より功労賞受賞
2000年  日本ビタミン学会より学会賞受賞
<その他>
2006年4月より(財)日本食品分析センター評議員
2006年4月より(財)旗影会評議員
2007年5月より(財)日本醤油技術センター評議員
<研究領域>
主に、ビタミンE同族体の生体内動態の解析、α-トコフェロール立体異性体の識別機構の解明、α-トコフェロールの代謝経路の解明、必須脂肪酸の代謝と食品成分による代謝の調節などの研究に従事。なお、ビタミン、脂肪酸、油脂についての栄養、最新知見についての啓蒙活動にも従事。
栄養学 〜昔の常識、今の常識〜(PDF)

■ 講演内容 ■( 講演資料より )※一部省略しています

欠乏の栄養学から飽食時代の栄養学へ
・食料不足や食生活が満足にできなかった時代から、食糧が豊富に手に入れられる時代になったことによる疾病の原因の変化。
・栄養素の働きの解明が進んだことによる栄養素の新しい機能の発見。
・疾病予防に果たす栄養素や食品成分の機能の発見。
・高齢化社会の到来に伴う栄養学の果たす意義。

最初に日本の栄養学の歴史的なエポック的なことについて
1.脚気の予防について
2.戦前、戦後の結核の予防と食生活の改善
3.たんぱく質栄養の研究
4.ビタミンの新発見について
5.脂肪栄養学の変遷
6.食物繊維の機能の発見
7.カロチンの吸収利用率について
8.ビタミンE 代謝物の生理作用について

昔の栄養学(1)
・欠乏時代は食生活の改善に主体
・江戸時代から第2 次世界大戦後までの脚気と結核の予防など
・脚気が「江戸患い」といわれた時代の「白米中心の食生活」
----箱根の山を越えると治るといわれていた。
・脚気の原因の解明と軍隊(海軍も含めて)での脚気による死亡者を如何に減らすかという努力

昔の栄養学(2)
1.3 大栄養素の働きの解明
2.ビタミンやミネラルの働きの解明
3.戦前、戦後の暫くの間はエネルギー源として炭水化物を供給していたお米は同時にたんぱく質源でもあった。
4.そのため、日本ではたんぱく質、ビタミンを補うための実際的な補給方法などの研究が主体。

森林太郎(鴎外){陸軍}と高木兼寛{海軍}の研究----脚気の予防と病因についての考え方の違い
・森鴎外---細菌による感染症と考えた。
・高木兼寛---食事の問題と考えた。それは日本の海軍の遠洋航海での犠牲者が多かったが、イギリス(留学先)では脚気が殆どおきていなかった。また、日本では貧窮層で少なく、富裕層に多いことや地方の元気な若者が軍隊に入ると脚気になることなどから日本食に問題があると考え、航海中の食事の改善に取り組んだ。

高木兼寛の実験
・高木は炭水化物とたんぱく質の摂取のアンバランスと考え、次のような実験を行った。
・太平洋横断の海軍軍艦の食事を2年間で内容を変えた。
1)龍譲 272日間 脚気患者 169名、死亡者 25名、食事内容 白米中心の食事
2)筑波 287日間 脚気患者 14名、死亡者 0名、食事内容 大麦、牛肉、大豆を多くしたもの。
・この結果より、高木は1883年から海軍の食事を改良することに踏み切った。

日本海軍での脚気患者発生数の変化
・患者発生率(兵士1,000 人当たり)
 1879(明治12 年) 400 人弱、1882 400 人強
 1885(明治18 年) 10 名前後、1887  ほぼ 0 名
 先程の海軍での兵食改善後激減した。
・脚気による死亡率(兵士10,000 人当たり)
 1879 年  100 名強: 1882 年  100 名強
 1885 年  数名程度: 1886 年 ほぼ 0 名
 その後は 0 名

結果を如何に考えるか。
・ビタミンB 1の発見は、1911 年のことである。
・高木の研究では脚気の原因物質は発見できなかったが、その予防には食生活の改善が大切なことを明らかにした。単にB 1だけを摂取するのではなく、食生活をバランスの取れたものにすることが重要だということを明らかにした点で極めて重要である。
・このことは、今の食生活のあり方や栄養のバランスを考える上で、最も重要なことである。

脚気死亡率年次変化(人口10万対)
1930年      25人
1935年      14人
1940年      8.9人
1950年       5人
1955年       1人
その後、著しく減少し1960年代には殆ど見られなくなった。
・ビタミンB1の日本での合成開始 1939年
・ビタミンB1の生産量 1950年代に5,000kgを越えた。
・1980年代に脚気が発見された。若い年代の食生活が極めて悪い学生さんで、運動選手に。


何故結核は減ったのでしょうか?
・衛生状態がよくなったので、感染しにくくなった。
・食生活の改善で免疫機能が高まった。特にたんぱく質栄養の改善。
・動物性たんぱく質の摂取量の増加。
 このたんぱく摂取量の増加は同時に脳卒中の発症率の低下ももたらした。
・予防のためのBCG接種で抗体を持った人を増やした。この政策は諸外国とは全く異なっている。アメリカなどは結核に対してツベルクリン反応陽性者は極めて少なく、同反応陽性者は結核感染者として検査を必要とされている。

栄養学の進歩は周辺の学問の進歩でも、もたらされた
・脂質と脂肪の健康への影響
・食物繊維の健康効果
・たんぱく質栄養の進歩
・様々な食品成分の健康への影響についての研究の成果
・ビタミンやミネラル研究の進歩やそれらの相互作用についての研究
・ビタミンの体内での代謝についての研究

脂質栄養についての考え方の変化
・コレステロールは悪者?
1.細胞膜の成分
2.ホルモンの原料
3.胆汁酸の原料
・何故コレステロールは悪者にされたか?
・血液中のコレステロールの濃度が高くなりすぎると、動脈硬化を引き起こすことは分かるが、どれ位多くなると、体に悪いか?

コレステロールと植物ステロールの関係
・人はコレステロールのみ利用(自分でも作るし、食品中のコレステロールもよく利用する。
・しかも、一度腸管に分泌したものも再度再吸収している(これを腸肝循環といっている)
・この作用は食品中の脂肪や脂溶性ビタミンなどと一緒に行われている。
・植物ステロールは吸収できず、大腸から排泄される。それで、植物ステロールはコレステロールの吸収阻害をしていることになる。

必須脂肪酸の種類と分類
・リノール酸系(n-6):体内でアラキドン酸まで代謝される。リノール酸は体内で作れない。(必須脂肪酸の仲間)
・リノレン酸系(n-3):体内でEPAを経て、DHAまで代謝される。リノレン酸も体内で作れないので、必須脂肪酸の仲間
・(n-6)系と(n-3)系も相互変換できない。
・体内でプロスタグランジンやロイコトリエンなどの生理活性物質の前駆体としても利用される。
・オレイン酸系(n-9):体内で合成できる。ステアリン酸を原料として。

脂肪酸栄養学の変化
・昔は飽和脂肪は悪く、不飽和脂肪はいい。それで、バターは悪く、マーガリンはよいといわれた。
・また、一時悪者にされたリノール酸(n-6系)は本当に体に悪いの?また、オレイン酸はどうなのか?
・DHA,EPA(n-3系)とどう違うのか?
・最近は、トランス脂肪酸は飽和脂肪よりももっと体に悪く影響するといわれている。
・それで、新聞その他の報道のように、ニューヨークやカリフォルニアでトランス酸含量の高い食品の販売を停止することになった。
・ところで、トランス酸はどんな酸?

トランス脂肪酸とは?
・元来、自然界には極く僅かしか存在していない。
・天然の植物油や動物油は全てシス型でトランス酸とは空間での配置が違う。
・水素添加油脂で増える。
・反芻動物の脂質やミルクに5%近く存在。
・加熱精製された油脂には、1%程度存在。
・日本の加工油脂(マーガリンやショートニング)ではどうか。水素添加工程や触媒の選択で欧米に比べ、大分含量が低くなっている。今後の研究でもっと下がる方向にある。
・また、同時に植物油由来のリノール酸を摂取することで、トランス酸の人への影響は低くなる。現在、食品安全委員会で摂取量、表示などについて検討中である。

脂肪栄養についての考え方の変遷
・飽和脂肪(パルミチン酸やステアリン酸に富む脂肪:牛の脂肪や豚の脂肪)は減らした方がよい⇒その理由は、血中コレステロールを下げるようにするため⇒動脈硬化予防につながる。(この考え方は変わっていない)
・多価不飽和脂肪酸(リノール酸とリノレン酸やEPA,DHA)を増やした方がよい⇒血中コレステロールを下げる。⇒しかし、最近はそれぞれの脂肪酸により作用に違いがあり、同一とはいえない。また、オレイン酸にも同じような作用があるので、話は難しくなった。一般にn-6系とn-3系の比率を4:1程度にすると良いといわれているが、それぞれの脂肪酸に作用の強弱があり、その人の遺伝的な体質で疾患へのリスクも異なるので、正確にこの比を決めるのは困難で、日本人の食事摂取基準ではそれぞれの目安量が決められている。

脂肪(脂質)についての食事摂取基準
・2-29 歳までは、脂質の摂取量は総エネルギーの20〜30%の間にする。(目標量)
・飽和脂肪酸は18歳以上で総エネルギーの4.5 〜7.0 %の間にする。
・n-6 系脂肪酸は年齢で幅が違うが10 エネルギー%未満(目標量)
・n-3 系脂肪酸は年齢で幅が違うが概ね。2.2 〜2.6 エネルギー%以上
・コレステロールは成人男子テで750mg 未満、女子で600mg 未満( 目標量) 。

最近の植物油の脂肪酸組成の変化
・サフラワー(紅花)油のリノール酸が減り、オレイン酸と置き換わった。
・ひまわり油もリノール酸よりもオレイン酸リッチになり、オリーブ油よりもオレイン酸含量が高い。
・熱帯産のココナッツ油やパーム油、パーム核油も輸入され、従来と異なり、食用にも利用されるようになった。
・日本で使われている植物油の大部分は大豆油と菜種油の2 種類で、他の植物油は量的に少ない。

血液中のコレステロール値はどれ位が望ましいか?
・動脈硬化学会では、220mg/dlを推奨しているが、自殺とか高齢者のQOL を考えると、250mg/dl位が望ましいという研究者もいる。
・現時点で、全ての要素を入れて考えると220〜250 /dl位に保つのが良いのではないか。
・脂肪酸の種類により、コレステロールへの影響が異なるので、一概には言えなくなった。
・また、血中中性脂肪(TG) の値も高いと動脈硬化的に作用するので、注意が必要である。

食物繊維について
・1971年にBurkitt博士がアフリカでの医療活動と疫学的な研究から食物繊維が大腸がんの予防に重要だという論文を発表してから注目されるようになった。それまでは、消化されない不必要な食品成分だと考えられていた。
・その理由は人が消化できる酵素を持たないためであったが、その後の研究で大腸で分解されて、鎖の短い脂肪酸(炭素数2,34位の脂肪酸になり、エネルギー源になるとともに、大腸の健康に重要なこと(例:ビフィズス菌の生育に必要で、数を増加させる)が見直されてきていて、エネルギー1,000kcal当り10g程度摂ることが望ましいとされている。ということは毎日20-25g摂ることが望ましい。
・食物繊維は不溶性(水に溶けないもの)と可溶性(溶けるもの)に分けられていて、それぞれに機能が違う。
・可溶性食物繊維は寒天、ペクチンやアルギン酸など。血中のコレステロールを低下させるといった効果が知られている。
・不溶性食物繊維はセルロースや植物の細胞壁を構成している成分で、その他に便通の改善など。

ビタミン研究の最新の流れ
・ビタミンE 同族体の内、γ ートコフェロールの代謝産物のナトリウム排泄作用
・葉酸の新生児の神経管閉鎖障害の予防効果 ー ー100% ではないが。
・葉酸、B12,B6 などが高ホモシステイン血症を予防し、心筋梗塞の発症率を低下させる。
・抗酸化ビタミンの老化予防。
・ビタミンK の骨粗鬆症の予防効果。
・その他

機能性食品の開発
・特定保健用食品として多数の食品が保健の用途をもつとして厚生労働省から認可されている。
・こうした機能は食品の3 次機能といわれ、1 次機能(栄養)、2 次機能(味、香りなど)に新たに加わったきのうである。
・医療費の増大で保険が破綻寸前であり、予防の観点から未病の段階で利用できれば、有用と考えられる。

3大栄養素のバランス(成人)が大切
・たんぱく質⇒17~20 エネルギー%
・脂質(脂肪)⇒25~30 エネルギー%
・炭水化物(糖質)⇒50~70 エネルギー%
・食物繊維は成人で、19-27g(男)、15-21g(女)
・電解質:Na(食塩として8g(女)、10g(男)未満
 K、1.6(女)~2.0g(男)を高血圧予防のために。
・微量栄養素
 1.脂溶性ビタミンはAとDの過剰摂取に気をつける。
 2.水溶性ビタミンにも上限量があるものがある(ナイアシン、B6、葉酸の3つ)
 3.微量ミネラルには、摂りすぎると害のあるものがあるので、摂りすぎに注意(Mo,Mn,Fe,Cu,Zn,Se,Iなど)。



<リンク>
栄養改善普及会

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