BUNSHODO
前回までの文祥堂フォーラムのご紹介
第295回 子守唄に綴られた日本
       
~女性の立場と子育ての移り変わり~
2010年4月14日






























































 なにげなく歌っている日本の子守唄の曲数は、世界に類を見ない多さです。歌詞の内容は日本独特のもので、歌い手の思いは勿論のこと、各時代における人々の生き方、風習、伝統が今も息づいています。
  また、子守唄は文学作品の中にも取り上げられていたり、《源氏物語》《徒然草》には女性の生き方、子育ての方法が描かれています。
  時代を追ってそれらを紹介し、現存する曲「五木の子守唄」や「江戸子守唄」他は、実際に演奏しながら歌詞の解説をいたします。また、会場の皆様と共に歌うことにより、子守唄をより深く味わっていただきたいと考えています。
  そして多くの子守唄や文学作品から見えてくる命の大切さ、男女という性、日本の伝統文化である子守唄を歌い継いでゆく意義を、ここで改めて皆様の心に問いかけると共に、ご一緒に考えてみたいと思います。
(川原井 泰江)




PROFILE ・・・・・・・・・・・・・・・・・

川原井 泰江 氏 (かわらい やすえ)
わらべ唄子守唄研究家
声楽家(ソプラノ)
日本声楽発声学会会員


演奏活動:1980年~
 東京都出身在住。洗足学園音楽大学声楽科卒業。在学中、イギリスで行われている「ユースオーケストラ&ユースパフォーマンス・アーツ国際フェスティバル」に参加。
 卒業後、「北区宣武区訪問・北区民友好交流団」団員とし訪中、日本歌曲を披露する。以後、二度にわたり中国より招聘されリサイタルを開く。また邦楽器との共演により ドイツ各地で演奏。外務省国際交流基金派遣音楽家としてパキスタンへも赴く他、アジア。ヨーロッパで活躍。
 作曲家の依頼による新曲演奏やシェーンベルクの歌曲全曲演奏、邦楽・洋楽器奏者とのコラボレーションなど意欲的に活動している。ベートーヴェン《第九交響曲合唱付》、ヘンデル《メサイア》など多くの合唱曲のソリストを努め、プッチーニ《ラ・ボエーム》、團伊玖磨《夕鶴》他に出演。現在は日本歌曲を中心に演奏活動をしている。

伝承唄に関する活動:1985年~
 平素より〈わらべ唄 子守唄〉をライフワークとし、曲に関するお話しをしながらの川原井泰江ならではの演奏・講演活動は、NHK〈ラジオ深夜便〉「ないとエッセー」『わらべ歌と私』と題し、4回連続出演する他、TBS・FM等のメディアを始めとし読売・毎日他の新聞や雑誌などで特集を組まれ、各方面ですでに定評を得ており、多くの方々の支持を受けている。また、わらべ唄・子守唄を採譜し、伝承者のメッセージと共に「 伝承 -心と心を紡ぐー 」にて、発表している。

執筆活動:1998年~
 新聞・雑誌の連載「心を育む子守唄」「わらべうた」他の執筆も行っており、著書に『守り子と女たちのこもりうた』㈱ショパン・『なつかしのわらべ歌』CD付き ㈱いそっぷ社 等がある。

巽聖歌に関する活動:2008年~
 「たきび」を作詞した児童文学者である巽聖歌の業績や作品を、音楽を通して発信している。東京都日野市「たきび祭」・岩手県紫波町「巽聖歌童謡祭」他の活動は、巽聖歌の長女やよひ氏始めとする親族と、日野市郷土資料館学芸員(巽聖歌研究者)である北村澄江氏の指導の元に行われている。川原井泰江は巽聖歌の縁戚にあたる。

音楽による社会活動:1985年~
 養護学校・療養所・障害者・老人介護施設にて演奏会へ出向けない方々の為に「出張音楽会」と称し、音楽や手遊び他を通して心と 心身のケアを行っている。また、〈わらべ唄 子守唄〉を題材に日本における子育ての歴史や、家庭環境、大人と子どもの関係改善等についての講演活動演奏内容は、新聞雑誌等でたびたび取り上げられている。



■ 講演内容 (講演資料より)

『 子守唄に綴られた日本 』
~女性の立場と子育ての移り変わり~

  1. 日本の伝承唄 (わらべ唄 子守唄)とは
    ・口承伝承について
    ・歌詞について
    ・題名について

  2. 子守りの歴史
    ・聖徳太子の子守唄・・・鎌倉時代
    ・『万葉集』の中の子守唄・・・奈良時代
    ・『枕の草子』の中の子育て・・・平安時代
    ・『閑吟集』人買いの唄・・・室町時代
    ・『日本歌謡集成』の中の子守唄・・・江戸時代
     ※乳母について
    ・「人買唄」他
    ・『童謡集』釈行智
    ・『天神記』の中の子守唄
    ・「女工唄」・・・明治~大正

  3. 守り子唄
    ・五木の子守唄
    ・天満の市
    ・竹田の子守唄
    ・中国地方の子守唄・・・守り子唄

  4. 広く知られている子守唄
    ・中国地方の子守唄
    ・江戸子守唄

  5. 近年の子守唄伝承と子育てについての問題点

子守唄資料

《聖徳太子の子守歌 》

〔おどし唄〕
太子を守りまいらせ…… (略)
 ……寝いれねいれ子法師
ゑんのゑんの下に むく犬の候ぞ
梅の木の下には 目木羅々のさぶらふぞ
ねんねん法師にををつけて ろろ法師に引かせう
露々法師にををつけて ねんねん法師に引かせう

〔寝させ唄〕
御めのとはどこへぞ 道々の小川へむつき濯しに
ねんねんねんねんろろろろ
梅の木の下には 目木羅々のさぶらふぞ…… (略)

『万葉集』の中の子守唄 巻第十三
もろみは 人の守る山 本辺は 馬酔木花咲き
末辺は うらぐはし 山ぞ 泣く子守る山

『枕の草子』にみる子育てと女性の立場

〈すさまじきもの〉 (第二二段)
すさまじきもの。
昼吠ゆる犬、春の網代、三四月の紅梅の衣、牛死にたる牛飼、
乳児亡くなりたる産屋、火おこさぬ炭櫃、地火炉。
うち続き女児生ませたる。

〈苦しげなるもの〉 (第一五〇段)
苦しげなるもの。
夜泣きといふわざする乳児の乳母。

〈かしこきもの〉 (第一七九段)
かしこきものは、乳母の夫こそあれ。
帝、皇子たちなどは、さるものにて、おきたてまつりつ。そのつぎつぎ、受領の家などにも、ところにつけたる覚え、わずらはしきものにしたれば、したり顔に、わが心ちもいと寄せありて……。
この養ひたる子をも、無下にわがものになして、女はさあれどあり、男児は、つと立ち添ひて後見、いささかもかの御言にたがふものをば、爪立て、言し、悪しけれど、これが世をば、心にまかせていふ人もなければ、ところ得、いみじき面持して、事行なひなどす。
無下に幼きほどぞ、すこし人わろき。
親の前に臥すれば、ひとり局に臥したり。さりとて、ほかへいけば、「異心あり」とて、さわがれぬべし。しひて呼びおろして臥したるに、「まづ、まづ」と呼ばるれば、冬の夜など、ひき探しひき探しのぼりぬるが、いとわびしきなり。
それは、よきところも同じこと、いま少しわづらはしきことのみこそあれ。

《人買いの唄》・・・『閑吟集』 (一三一番)
人買舟は沖を漕ぐ とて売らるる身を ただ静かに漕げよ 船頭殿

《江戸の手鞠唄》・・・『日本歌謡集成』
……伊勢の長者の茶の木の下で 七つ小女郎が八つ子を生んで
生むにや生れず降ろすにや下りず
向ふ通るは醫者ではないか 醫者は醫者でも藥箱持たぬ
藥御用ならたもとに御座る 之れを一服煎じて飲めば 蟲も降るしその子もおりる
若しもその子が男の兒なら 京に上して狂言させて 寺に上して手習させて
寺の和尚が道楽和尚で 高いへいから突落されて 笄落し 枕落し
おせんやおせん おせん女郎 汝の挿したる笄は
拾たか貰たか美しや 拾ひも貰ひも致さぬが 江戸の一息子
女房が無いとて悋気する……

《佐久の手鞠唄》
……雨もふります七十五日 水も出ました此頃まへは
船を浮べておこさをのせて 乗せたところにせきしょをうゑて
せきしょ さくさく おこさは孕む
腹にある子が女の子なら こもへ包んで川原へ流し
腹にある子が男の子なら 金の團扇であほりてくれて 七つ八つから手習させて……

《島根の手鞠唄》
もしもてんねん腹に子ができて 生もか堕ろそか殿御に問えは
生めば 生め生め 堕ろさしゃすまい
もしも てんねん女の子なら こもへ包んで 子縄しめて
沖の小川へ ちょぱりと投げる
もしも てんねん男の子なら 寺へさしあげ 学問させて
寺の和尚の小僧さんにする

《人買いわらべうた》・・・(宮崎県)
みかん きんかん 酒のかん 親のせっかん 子が聞かん
聞かん子売ろうか 人買い殿へ
この子 どの子 この子 なんぼで買うか はい ちょっと一貫いかがです

《お仕置き唄》・・・(宮崎県日向市)
一つ人もいやがる わしもいや 二でにげたげな 三で探され
四で縛られ 五で拷問 六で牢屋にしゃがみこみ
七で火あぶり 八ではりつけ 九で首切られ
十でとうとう死んだげな

『童謡集』釈行智

〔寝させ唄〕
ねえ、んねーんねんねこよ
ねんねのおもりは どーこいたー  やーまをこーえて さーといてー
さーとの御みやに 何もろたー  でんでん太鼓に 笙の笛ー
おきあがりこぼしに ふりつヾみー  ねーゑんねーゑん ねんこりー (略)

〔目覚め唄〕
おー月さーまいくつー 十三七つ まだとしやーわーかいなー
あの子をうんで この子をうんで
だーれにだかしよ お万にだかしよ
おー万どこいたー 油買いに茶ーかいに
油屋の縁で 氷がはって すべってこーろんで 油一升こーぼして
二郎どんの犬と 太郎どんの犬と みんななめてしーまつた
その犬どうした 太鼓にはって
あっちらむいちやーどんどこどん こっちらむいちやーどんどこどん

〔遊ばせ唄〕
《うさぎうさぎ》

うーさぎうさぎ なによ見てはねる
十五夜お月さまー 見てはーねる

『天神記』の中の子守唄・・・近松門左衛門作の浄瑠璃(一七一三年)

《寝ねこせ寝んねこせ》
寝んねこ寝んねこ 寝んねこせ
音せでおよれ 犬の子犬の子 目だに覚めたら 背にきつと背負ふて
ののへ参らふ参らふ ののさまの土産には でんでん太鼓に笙の笛
お山人形に花折り着せて 着せて 着せて雉の雌鳥ほろりと落ひて
しょのしょの おいとしょの

《機織唄》
こんな泣く子の守するよりは わらしゃ 機屋へ管巻きに
こんな子守りを さらりとやめて 当世はやりの機業場

《機織唄》
七つ八つから 糸引きなろて 今は糸屋の嫁となる

《女工小唄》
四つとせ 夜も寝ないで夜業する 長い寿命も 短こなる
皆さん あはれと思はせ
五つとせ いつかお国の二親に 辛い工場の物語り
共に泣いたり 泣かせたり

《女工唄》・・・『女工哀史』細井和喜蔵
寄宿流れて 工場焼けて 門番コレラで死ねばよい
工場は地獄よ 主任が鬼で 廻る運転 火の車
籠の鳥より 監獄よりも 寄宿住ひは 尚つらい

守り子唄

《五木の子守唄》
おどま盆限り盆限り 盆から先やおらんど 盆が早よ来りゃ 早よ戻る
おどま勧進勧進 あん人達ゃよか衆 よか衆よか帯 よか着物
 
おどんが打死んだば 道端埋けろ 通る人ごち 花あぎゅう
花は何の花 つんつん椿 水は天から 貰い水
 
おどんが打死んちゆて 誰が泣いてくりょか 裏の松山 蝉が泣く
蝉じゃござんせぬ 妹でござる 妹泣くなよ 気にかかる
  
おどま勧進勧進 がんがら打ってさるこ 瓶で飯炊ーち 堂で泊る
おどまいやいや 泣く子の守にゃ 泣くと言われて 憎まれる
 
おどま知っとるばってん 言わんでの事よ 言えば嫌わるる 憎まるる
辛いもんばい 他人の飯は 煮えちゃおれども 喉こさぐ
 
ねんねした子にゃ 米ん飯食わしゅ 黄粉あれにして 砂糖つけて
ねんね一ぺん言うて 眠らぬ餓鬼は 頭叩いて 臀ねずむ
 
子どんが可愛がりゃ 守に飯食わしゅ 守がこくれば 子もこくる
おどまばかばか ばかんもった子じゃって よろしゅたのんもす 利口かひと

《天満の市》
一、ねんねころいち 天満の市で 大根揃えて 船に積む
二、船に積んだら どこまで行きゃる 木津や難波の 橋の下
三(1)、橋の下には 鴎がいやる 鴎捕りたや 網ほしや 網はゆらゆら 由良之助
三(2)、橋の下には 亀がいやる お亀捕りたや 竹ほしや
   竹がほしけりゃ 竹屋へ行きゃれ 竹はなんでも ござります

《竹田の子守唄》
一、守も嫌がる 盆から先にゃ 雪もちらつくし 子も泣くし
二、盆がきたとて なに嬉しかろう 帷子はなし 帯はなし  
三、この子よう泣く 守りをばいじる 守りも一日 やせるやら
四、早もゆきたい この在所越えて 向こうに見えるは 親の家 
五、来いよ来いよと 小間物売りに 来たら見もする 買いもする
六、久世の大根めし 吉祥の菜めし またも竹田の もんぱめし

《中国地方の子守唄》・・・守り子唄として
一、面の醜い子を まな板に乗せて 青菜切るように ねんころろん
   じょきじょきと ねんころろん ねんころろん

二、寝たか寝なんだ 枕に問えば 枕ものいうて ねんころろん
   寝たというた ねんころろん ねんころろん

広く知られている子守唄

《中国地方の子守唄》
一、ねんねこしゃっしゃりませ
   寝た子のかわいさ 起きて泣く子の ねんころろん 面憎さ
   ねんころろん ねんころろん

二、ねんねこしゃっしゃりませ
   今日は二十五日さ 明日はこの子の ねんころろん 宮参り
   ねんころろん ねんころろん

三、宮へ参った時 何と言うて 拝むさ
   一生この子の ねんころろん まめなよに
   ねんころろん ねんころろん

四、まめになりたら 赤いまま炊いてさ
   ばばがおんぶして ねんころろん お礼まいり
   ねんころろん ねんころろん

五、まめになったら 絵馬買うて あげましょ
   絵馬はなに絵馬 武士絵馬 あげましょ
   ねんころろん ねんころろん

《江戸子守唄》
一、ねんねんころりよ おころりよ 坊やは良い子だ ねんねしな
二、坊やのお守りは どこへ行た あの山越えて 里へ行た
三、里の土産に なにもろた でんでん太鼓に 笙の笛
四、起き上がり子法師に 振り鼓(犬張り子) たたいてやるから ねんねしな
   ねんねんころりよ おころりよ

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